もの言わぬ 物がもの言う もの作り

感動の瞬間は幸福の瞬間です。人々が物を手にした瞬間に感動を与えられない品物、ものが言えない品物は作ってはいけない。ものを言える品物、感動を与えられる品物を提供することを常に考え、この基本理念を語れぬ品物は一切出してはいけません。
また感動を与えし物作りは感動与えし者作りからと考え、良き物を作る良き者でありたいと願っております。

りんよ工房は天保14年創業者興五郎により、おりん工房二方屋を引き継ぎ二方屋興五郎として創業された。以来素材、技法を変えることなく五代目の今日まで音にこだわったおりんを作り続けている。素材は砂張と呼ばれる金属で銅と錫の合金である。高鋳青銅の起源は、紀元前3000年から2500年頃のハラッパ文明の遺跡から発掘されている物が最古のものと言われている。以来インド、中国と東に広がったようで各地に砂張を使った銅鑼などが今も点在する。日本には正倉院の宝物として保存されている。日本における砂張は日本の文化に育まれ独自の発達を遂げたと思われ、おりんとして独特で繊細な形で愛され続けている。さらに、鋳造と言う大胆で力強い作業を要求されながら、音と言う繊細な神経が必要となる「おりん(砂張)」は素材よりもむしろ技法に寄る音の影響が大きい。なぜなら砂張は、技法による金属の性質の変化に大きく影響する特徴があるからである。しかし、りんよ工房には砂張の力を十分発揮させられる技がある。それは正倉院から育まれ淘汰されてきた技法の蓄積のある工房であり、歴史ある古来からの技法による砂張のおりんを現在に伝えることの出来る、唯一の工房であるからだ。

  1. 天保14年(1843年)
    創業者興五郎により、二方屋興五郎を創業
  2. 明治期~
    二代目興吉が京りん興の屋号で親しまれる
  3. 大正初期~
    三代目勘三郎
  4. 昭和49年(1974年)
    四代目淳一
  5. 昭和62年(1987年)
    2月20日、有限会社白井工場法人化
  6. 平成4年(1992年)
    2月、五代目克明が取締役代表に就任
  7. 平成20年(2008年)
    2月、有限会社りんよ工房に社名を変更
  8. 平成24年(2012年)
    白井ベル事業着手

素材・砂張(さはり)とは佐波理とも書き、錫を多く含んだ銅との合金「高錫青銅」になります。すごく繊細な金属であり、技法の少しの違いで全く違う性質を形成しますので、製造工房によって全くの別物と考えて良いと思われます。また最近では製造の容易さなどによる鉛やケイ素を含んだ三元合金の「砂張」が広まって来ておりますが、私たちは錫と銅との二元合金の「砂張」にこだわっております。

りんよ工房の工程にも数多くのこだわりがあります。それは良い音色のためだけに存在します。単純で意味のなさそうな作業でも省いたり、簡易化することで音に悪影響が出ます。音という目には見えないものとの関わりを代々淘汰し続けてきた鳴金物のための鳴金物製造法こそが工房の強みです。

私たちの「砂張おりん」は鋳造と言う製造法によって作られています。型を作り、溶かした金属を型に流し込み、切削加工を施し製品にしていきます。

私たちの仕事はまず、鋳型用の土を探すところから始まります。この土の良し悪しで音が変わるからです。この土を基に様々な種類の真土(まね)を作り鋳型を作っていきます。最初に下型作りから始まります。大きさ・形に合った下型を作り乾燥、焼成を行う。この下型を土台に一つの「おりん」に一つの型を作ります。作業台に固定した下型に真土をかけ、上下に固定された指型となる薄い鉄板をくるりと回し、おりんの型を取ります(この技法を回し型)。この作業で内側の型と外側の型を作り、その両方の型を合わせることで一つの鋳型となります(この鋳型を惣型)。鋳型作りは真土の硬さや下型の温度、軽い衝撃など注意点が多く、非常に繊細な作業になります。

型が出来ると鋳込みの作業を行います。最初に焼成炉で鋳型を高温で焼き始めます。傍ら溶解炉で銅と錫を溶かしながら砂張の合金を作っていきます。焼成炉の鋳型は時間と温度が作業当日の気温と天候が大きく影響するため一瞬たりとも焼成炉から目を離せません。鋳型が焼けるのは一瞬です。早すぎても遅すぎても「おりん」は鳴りません。その瞬間を逃さず高温の鋳型を取り出します。真っ赤に焼けた鋳型にどのタイミングで溶かした砂張を流し込むのか一番難しいところです。熱い型に溶けた金属が流し込まれ固体化が進む、人と自然が協調して一つの音を作り出す瞬間です。型が冷めたら型から鋳物を取り出します。一つ一つの型から個性豊かな鋳物が表れます。一番楽しみな瞬間、一番怖い瞬間、一つ一つ音の確認をします。この時聞くのは目の前の鋳物の音ではなく品物が完成した時の音「この鋳物をこんな風に加工してやろう、そうすればこんな音が出来上がる。」という風にです。鋳物は一度熱処理を施し、鋳肌を取り、轆轤(ろくろ)を使い手作業で挽いていきます。音を確認しては挽き確認しては挽きの繰り返しです。

仕上がったおりんは最終の音検品を行います。「この音がこの工房に相応しい音であるのか?」一つ一つ厳選されています。


  • おりん専門店 二方屋
  • 白井ベル